今後、少子・高齢化の進行などによって国内市場の縮小が避けられない中、アジアを中心とした新興諸国の旺盛な需要を獲得することは、道内企業の成長に不可欠となっています。とりわけ中小企業にとっては、取引先との関係の維持・強化の観点からも、積極的な海外事業展開を図る重要性が高まっています。道内中小企業の海外展開は、全体としてはまだ少ないものの、最近は新たなビジネスチャンス獲得のために海外展開を計画する企業も増加傾向にあり、今後もこうした傾向は続くと見られます。
一般に、中小企業等が海外展開を行なう際には、事業計画の策定はもとより、現地に関する情報収集、資金調達、販路開拓、品質・ブランド管理、知的財産権の保護、人事・労務管理、信頼できるパートナーの確保といった様々な課題に直面します。また、これらの課題は海外展開の開始時から撤退時までの時間軸、業種(製造業、非製造業)、進出先(国、地域)、進出方法(輸出、直接投資)などによっても、重要度や優先度が異なってきます。
海外では、外資に対する規制、原材料調達、品質・ブランド管理、知的財産権の侵害(模倣品)、技術漏えい、人件費の高騰、労使紛争の発生、治安の悪化など、国内では想定しづらい様々な問題に直面する蓋然性が高いことを踏まえ、できる限りの事前準備が求められます。その中でも、海外における模倣品被害や権利侵害事件、技術流出等の問題はよく知られるところですが、それらの知的財産リスクも当該進出国への知的財産権の登録など的確に対応することで、ある程度軽減することが可能となります。
中小企業は、大企業に比べて経営資源が限られている場合が多く、また、目指している海外進出の形態も様々です。海外で知的財産権を取得するためには、代理人費用や、明細書の翻訳費用を含めて多額の費用が必要となります。しかしながら、海外で知的財産権を取得するために必要となる多額の資金を準備することや、権利取得後にその資金を回収することは容易ではありません。海外進出の目的、形態等によっては、「知的財産」を守るための手段として、特許権が最適だとは限りません。例えば、海外の子会社に権利をライセンスし、ライセンスフィーとして資金を回収する場合、権利取得に係る費用が比較的安価である実用新案権や意匠権が適切な場合もあります。また、敢えて権利化せず、ノウハウとして秘匿する選択肢もあります。海外でのビジネス形態に合わせて、必要な権利を取得し、「知的財産」を有効に活用することが、収益の増加に結びつくものと考えられます。
知的財産権の侵害(模倣品)については、模倣品が買われることによる売り上げ減少のほか、自社の信頼やブランド価値を損なうことにもつながり、重大事故の原因や消費者の健康・安全・安心に対する脅威にもなりえる深刻な問題です。また、仮に模倣品で問題が発生し、製造者責任を裁判等で問われた場合には、自社に責任がないことを自ら立証しなければならず、そのための費用と労力は膨大なものとなります。特に模倣品問題が多発する地域での対応には細心の注意が必要です。営業秘密、技術情報、ノウハウといった「権利化されていない知財」の漏えいは、企業の競争力を損なうだけでなく、国富の損失でもあります。中小企業は特許やノウハウの数が少ない場合が多いものの、流出・漏えいの影響は甚大であり、危機感を持って対策を講じるべき重要課題と言えます。
このように、大企業に比べて経営資源の限られている中小企業が海外展開を行なう際には、公的な支援機関や海外展開支援施策などを最大限に活用しながら、計画的に進めていく必要があります。