(株)丸勝[帯広市] 専務取締役 梶原 一生 氏

新たな価値を十勝にもたらす、
リーディング・カンパニーであれ

株式会社丸勝 専務取締役 梶原 一生さん

「兄貴が継がないのは許さない」と
弟たちが……

 僕は4人兄弟の長男ですが、父は何かと自由にさせてくれる人で、僕を15歳でニュージーランドに留学させてくれました。海外生活が10年近くにもなると、見聞が広がり、やりたいこともたくさん出てきて、“ずっとこのままいようかな”と思うこともありました。ところが弟たちからの強烈な反対に遭いまして。「オレたちは後継ぎとしての兄貴の背中を追いかけてきて、兄貴が経営者になった時に何ができるかを考えて生きてきたから、ちゃんと日本に戻ってきてくれ」と。僕をライバル視して毎日ケンカしていた仲でしたから、驚きました。そうして僕は継ぐことを決意。今では弟たち全員がうちの会社に入り、各部署で会社を支えています。

 でも、戻ってすぐは兄弟・友人含め、なかなか周囲にいる方と話が合わなくて困りました。海外では意見の主張や議論は普通。その調子でいたら、「極端すぎる」と言われたり、議論にならず一方的な話で終わったり。面白いと思えるようになったのは、仕事で出会った年上の人たちと話をさせていただくようになってからです。十勝には個性的な人や、新しいことにチャレンジする人が実に多い。この出会いには救われました。

インタビューの様子1

父からのアドバイスは
「社長は一番の営業マンになる必要はない」でした。

 本業は農産物総合商社ですが、買って販売するだけでなく、自分たちでも十勝の魅力や食材の品質の良さを発信していかなければ未来はないと考え、その拠点にすべく「十勝ヒルズ」を2009年にオープン。7つのガーデン、ハンガリー料理レストラン、ショップなどをエリア内に配置し、十勝の農・食の魅力を伝える場としました。

 社内で誰も知識を持たない分野への挑戦だったので、父は僕に一任。この施設は、元々は他社が所有していたのをM&Aで傘下にしたものでした。でも、突然帰ってきた社長の息子に対する元から居た施設の社員の反発は激しくて。合併により従業員が増えましたが、新しいことへの拒否反応がある方もいて、当時の支配人に至っては、父に「彼(僕)の話はもう聞きたくない」と直談判ですよ。

 当時、僕は誰よりもガーデンに長い時間いて働きました。作業も好きなので、みんなが帰った後も庭の木を切ったり、堆肥をまいたり。その姿勢だけで認めてくれたわけではないけれど、根気強く2年くらい続けていたら、ついてきてくれる人も増えて。

 父から1つアドバイスされたのは、「社長は一番の営業マンになる必要はない」ということでした。「少しでも多く外の世界を見て、能力や人脈を広げ、会社の未来を見据えられるのは社長だけ。社員はそれぞれのスペシャリストになればいいが、社長がそれでは会社に伸びしろがない」と。それは真理ですが、社長が一番知識を持って先頭を走ってくれるのがいいと思う社員も多いですからね。その辺は僕もバランス良くできず、外に出るほうを中心にやっていますが、だからこそ十勝ヒルズが今の形になったと思っています。ここからは形になったものを実績・成果として認めてもらうことで、社員の不満を払拭するしかないんだろうなと。まだ道半ばですね。

インタビューの様子2
約1000種の草花や樹木が季節で楽しめるガーデン

東欧の在日本大使館を回って情報収集。
現地ハンガリーへも。

 2016年から手がけている新しいチャレンジは、ハンガリー産ロイヤルマンガリッツァ豚の肥育・加工・販売です。純血種の生体を輸入したのは全国で当社だけ。導入を決意したのは、何か新たな十勝の食の魅力を作れないかなと考えたからです。そこで、十勝と近い緯度で日本人があまり知らない歴史ある国はどこかと探すうち、東欧に目をつけた。すぐ外務省に連絡して、東京にあるブルガリアやハンガリーなどの5カ国の大使館を紹介してもらい、各大使を訪ねて歴史や食のことを聞いて回りました。

 レストランで全て実際に食べてみて、ピンときたのがハンガリー料理。食材がほぼ十勝で揃い、日本人が好む出汁を取る食文化がマッチしたからです。現地視察も行い、大使からいろんな話を聞くうちに、ハンガリーの国宝と呼ばれるマンガリッツァ豚を知った。美味しくて、まだ日本では目新しいこの豚を十勝の名物にしていきます。

インタビューの様子3
十勝ヒルズのハンガリー料理レストラン「ヴィーズ」

十勝は、本当の意味での持続可能な
観光事業を目指すべき。

 十勝は自然環境の魅力に関して、ものすごい優位性があると思っています。ただ、日本人の良し悪しで「自然環境として普通にそこにあるものにお金なんていただきません」というスタンスだから、対価を払ってもらう仕組みができていない。例えば欧米でのフィッシングは、釣りのできる環境から収益を生み出し、雇用が生まれ、漁業組合に払うライセンスフィーなどのお金で魚を放流したり、河川の清掃をしたり。このようにお金が回るので産業として成り立つし、自然もキープされて、さらなる魅力として磨かれていく。

 日本でそれをしているところはあまりにも少ない。それが整って初めて、自然を愛し、この地域を本当にいいと思って訪れてくれて、正しいものに正しい対価を払ってくれる質の高い旅行者が来てくれると思うんです。地域にも、環境にも負担にならない、そういう取組ができれば、SDGsというか、本当の意味での持続可能な観光事業が実現できるのではないかなと。

十勝の良さを伝えていく活動に、
完成形はないと思っています。

 僕は、アフターコロナは「ない」と思っています。今後もウイルスが社会的に影響することは繰り返され、落ち着いて元に戻る事はないと思う。ウィズコロナでどこまで勝負できるかは、まずは会社をどう安定させるかだと考えます。そのために、販路拡大・ブランドの見直し・顧客再設定などの戦略の立て直しが重要です。人間一度味わってしまった経験は絶対忘れられないので、美味しいもの、いいものというのは、外に出られなくても必ず買い求める。その個人消費をターゲットに事業を推し進めたいと思います。

 ガーデン観光に関しても逆転の発想で、地元の人に十勝の魅力を再認識して知ってもらえるようアプローチしたい。例えば十勝に親戚が来たときに、「ここ素敵だから一緒に行こうよ」と言ってもらえるような場所でありたいと思います。

 十勝ヒルズ、マンガリッツァ豚の商品化など、スタートは築けましたが、これで十勝が変わったとか、丸勝のおかげで十勝の魅力が増えたというところにはたどり着いていません。地域の人から、「この会社が十勝にあってよかったよね」と言われるように。今後も、農と食に関することで、地域のプラスになり会社のプラスになることであれば、どんどんチャレンジしていきたい。多分ずっと、完成形はないのかなと思っています。

アトツギへのMessage

誰よりも取り組む!
そうすれば7~8割のことは形になる!

 この1つに尽きると思いますが、「自分が何をやりたいのか、どうすべきなのか」というビジョンを明確に持つことです。そして、ブレずに、そのことに誰よりも詳しくなるくらい調べて、行動に移す。理想だけ語ってもしょうがない。

 僕が自分自身に誓い、言い聞かせているのは、「やるからには、誰よりも取り組んでいると自信を持って言えるように」ということ。そうすると7、8割のことは形になってくるものです。

梶原 一生
梶原 一生
1984年、帯広市生まれ。中学卒業後、ニュージーランド・クライストチャーチに留学し、高校入学。同オタゴの大学に入学し、2008年に帰国、株式会社丸勝に入社、2015年に専務取締役就任。農と食のテーマパーク「十勝ヒルズ」運営や、十勝の豆を活用した商品開発、日本で唯一ハンガリー産「ロイヤルマンガリッツァ豚」純血種を生体で輸入し、「十勝ロイヤルマンガリッツァ」としてブランド化するなど、新規事業に精力的に取り組む。
会社概要
農産物卸売業・食料品製造業
株式会社丸勝
帯広市西25条南1-4-2https://www.marukatsu.info
豆の卸売業を中心に手がける農産物総合商社として1948年に祖父・梶原昇氏が創業。生産者と消費者の橋渡しを行い、農作物の安定供給に努め、日本の食文化・食生活に貢献することがミッション。一生氏の入社以後は、十勝を世界に発信する拠点として、2009年に農と食のテーマパーク「十勝ヒルズ」運営をスタート。