- 一鱗共同水産(株)[札幌市] 営業部長 本間 雅広 氏
ブランディングと行動力で、
仲卸〝選魚職人〟たちの未来を切り拓く
めっちゃ緊張して、
「会社に入れてください」と頭をさげました。
自分は子供の頃からつい最近まで、親父(現社長・本間隆氏)とはほとんどしゃべったことがなかったんですよ。朝起きたら市場に出かけているし、部活して学校から帰ったらもう寝てるし、休みの日はゴルフだし。仲卸がどんな仕事なのか、どこに会社があるのか、まるで知らなかった。継げとも言われず継ぐ気もなかったので、大学ではスポーツに励み、卒業後は高校の日本史の教師を務めました。でもやがて、同業の先生たちが専門の研究分野を確立して膨大な知識量を持つ中で、自分はそこまでの情熱を持てずにいることに気づいたんです。
1ヶ月間、考えに考え抜いて、覚悟を決めて、めっちゃ緊張して父の部屋のドアをノックしました。「会社に入れてください」。頭を下げた自分に親父は、「どうしたんだ。入るなら入るでいいが」と、深くも聞かないが喜ぶでもなくという感じでしたね。そうして25歳で入社し、下積みから始めて今年で6年目になります。
現在は、経営や新規事業のことなど必要に迫られてよく話をします。何の提案にもたいてい社長は乗り気ではない。でもこっちは、これ言われたらこう返そうと全方位にシミュレーションして臨みますから、最後には「やってみれば」ということに。「それいいな」もないけれど、「俺がだめと言ったらだめだ」はないので助かっています。
「このままじゃ、会社なくなりますよ!?」と、
かなり〝暴れ〟ました(笑)
現場では良くも悪くも「社長の息子」という腫れ物扱いはなく、全く普通の新人として扱ってもらえました。自分はサンマなど大衆魚担当の課に所属し、1000も2000ものケースをひたすら運ぶ仕事から始まったんですが、だんだん仕事が分かってくると、会社の改善しなければいけない点も見えてきました。
仲卸で働く社員は魚のプロであり、その知識は伝承すべき社の財産です。定年になる前に若い世代に伝えないと途絶えてしまうが、新人採用をほとんど行ってなかった。「これはマズイですよ、会社のパンフレットも20年も前の物だし、ホームページもないので作りましょう、若い人たちは就活でホームページ見ますよ」と社長はじめ古株の社員たちを説得しましたが、「費用が高い」「そもそも必要なのか?」と考える人たちですから、ついには自分、暴れました(笑)
「このままじゃ、会社なくなりますよ!?そんなつもりで入ったんじゃない!」
会社に意見するのは、ある程度の立場になって発言権を得てからと考えていたんですが、「それじゃ間に合わない」と気づいたら、動かずにいられませんでした。パンフとホームページを自ら作り、魚のプロを「選魚職人」と名付けてブランディングしたり、異業種交流の場に積極的に顔を出して飲食店とのコラボを実現したり。新たな取り組みを行うことに対して社内でも賛否両論ある。ただ、自分はゴールを見据えてやってるんで、そこはブレない。自分がやると決めたらやるしかない、と覚悟を決めています。
最終的には、「プロのコンサル」的な存在になりたいんですよ。「魚をどうやって売ればいい?」とスーパーなどのバイヤーさんが質問しに来たら、それに応えられる会社にしたい。「魚のことはここに聞いて任せれば、絶対に大丈夫」というような。
広報スタッフに、元スキージャンプ選手の
山田いずみさんを迎えました。
ショックだったのは、あるスーパーのバイヤーさんから「産地から直接買って産地直送のシール貼ったほうが売れるので、一鱗の商品は要らない」と言われたこと。でも、産地からでも市場からでも店着までの時間はあまり変わらないので、産直の鮮度が極端に良いわけではないんです。知ってる産地名が付いているだけで購買に影響力があるのであれば、うちが「知ってる会社」になれば、同じ影響力を持つのでは?と考え、ブランディングや広報に力を入れ始めました。
その一環として、直属の広報スタッフに山田いずみさんをスカウト。日本における女子スキージャンプのパイオニアで、引退後は高梨沙羅選手のコーチをしていた方です。当社の専務が元ジャンプ選手という縁で繋がり、広報として毎日のSNSの更新を一手に担ってもらっています。古い世代には「そんなの意味あるのか」と言われますが、自分はSNSの更新って、なめたらいけない仕事だと思ってるんで。SNSってタダで広告出せるようなもの。おろそかにしていいはずない。
また、山田さんがマスコミに取り上げられるのを社員が目にすることで、「うちは人から見られている会社なんだ」って意識を持ってくれるはず。会社名が取り上げられるのは、社員の自慢にもなるし、新人の採用にも繋がると思うんです。
居酒屋「一鱗酒場」のオープンで、
表舞台で会社をアピール!
GAKUのような飲食店に組んでもらえると、自分にない発想をもらえるし、消費者の反応を直に見ることもでき、うちが関わっているというアピールが学生たちに向けてのメッセージにもなる。一鱗共同水産ってこんなにいろいろやってるの?と、見る目が変わってくる。ひいてはそれが、水産業界に人の目を向けさせ、活性化することに繋がるはず。他の業界といかに一緒にいろんなことができるか。自分のやってること真似てもらっていいよ、皆でやろうよ、という思いがあります。
全国にいっぱいいる仲卸の息子さんたちが1人でも刺激を受けて、「この仕事、面白そうだな」と思ってくれればありがたいですね。
アトツギへのMessage
もがけ、ジタバタしろ。
「失敗」というものは、この世にない!
経験から言えるアドバイスは、「ジタバタするのが大事」。悩んだり壁にぶち当たったら、とにかく、もがく!「もがいていれば必ず誰かが見ていてくれる!」というのが自分の実感です。1人で考え抜いて結論を出してもいいけど、同じように悩んだ先輩やすごい経営者の人に会って、「どうしたらいいんですか?」とカッコつけずに聞いた方が絶対、近道だし。
良かれと思ったことは全部やってみるってことも大事です。失敗は、そこで終わらせず次に活かせば失敗じゃないんです。だから「失敗」って基本ありえない。
後継ぎって、ぶっちゃけ「お得」ですよ。そもそも商売の土台(経営資源)があって、やりやすい。なのに新しいことをやれば、「後継ぎなのに、古い業界なのに、こんなことしてすごい」って、注目されてほめられるじゃないですか(笑)
成功している経営者の人と飲みに行くなど、会うことも大事。得るものは必ずある。また、NPO法人北海道エンブリッジさんや行政が開催するイベントを利用して、意欲的な経営者や後継ぎ、学生と交流する方法もあります。バリバリやってるすごい人がいっぱいいる。自分みたいに、もがいて来た人もいる。そんな人たちと出会えるのは大事なことです。
- 本間雅広
- 1989年、札幌市生まれ。大学を卒業後、札幌市内の高校で2年間、社会科教諭を務めた後、2014年に入社。HPなどPRツールの整備や、飲食店メニューに社名を入れてもらうなどを通して社の認知度向上と新入社員のリクルートを図るほか、㈱GAKUとコラボした飲食店を開業するなど、水産の新たな可能性と価値を生み出すことを目指している。
会社概要
- 水産仲卸
一鱗共同水産株式会社 - 札幌市中央区北8条西20丁目1-20https://www.ichiuroko.co.jp
- 1959年創業の水産仲卸会社。北海道の拠点的市場「札幌市中央卸売市場」にて国内外問わず水産物を仕入れ、顧客である札幌近郊の鮮魚小売店、量販店、大手スーパーなどに販売。需要に確実に応える“選魚職人”ぞろいの人材が強み。