(株)スポーツショップ古内[札幌市] 代表取締役社長 古内 克弥 氏

野球グラブに特化し、道内最大の専門店に。
地域・業界への貢献をめざし進む。

株式会社スポーツショップ古内 代表取締役社長 古内 克弥さん

小学5年生で決意した承継。
「これが天職」と電撃が走る。

 「家業を継ぐ」と決めたのは、小学5年生のときです。当時の私はJリーガーを目指してサッカーに明け暮れていました。しかし、店のセールで「お前はサッカーをしているから、スパイク担当」と父に言われて手伝ったところ、どんどん売れるし、お客さんから「ありがとね」と言われて。お金をもらったのに感謝される、という体験が新鮮で、子供心に「これが天職だ」と電撃が走ったんです。

 そこからは、いろんなスポーツを知ろうと15種目ほどのスポーツを体験しました。うちは、中心街でないとスポーツ用品が買えなかった時代に、スキーをはじめ、あらゆる種目の商品を扱っていましたからね。そんな私を周囲も見ていたので、大学卒業のとき、スポーツ用品メーカーのゼットの方が「うちで修行したら?」と声をかけてくれて。それから3年間は恩返しのつもりで一生懸命に働き、トップセールスで社長賞を頂きました。工場で野球のグラブを作る経験も積んで、修理や加工のスキルを身につけられたことも感謝しています。

 でも、その成績で天狗になっていたんですね、戻った直後は、高慢な営業態度が取引先に嫌われて拒絶され、すっかり自信をなくして営業恐怖症になりました。毎日、営業に出るふりをしては、病に伏していた父の入院先に行き、「俺が帰ってきたんだから安心だよ」なんて嘘をついていました。結局、父と一緒に働けたのは時間にして計30分くらい。安心させられる業績は、見せられないままでした。

 その後、社長に就任した母は外商に重きをおく方針で、一方の私はお店を盛り上げたい。営業は重要だし尊重していますが、私がやりたいのは、お店を舞台とした「世界観づくり」なんです。そんなふうに2人の方向性が違っていたので、時にはかなりぶつかりました。乗り越えられたのは「お互いに尊重し合うこと」をしたからです。「あなたのやり方はここがうまくいった」「それをしたい気持ちはわかる」という感じで、否定せず尊重すること、これに尽きます。

インタビューの様子1
グラブを説明する古内さん

野球とバドミントンの専門店に転向。
大型店やネットにない〝役割〟を知る。

 父が亡くなり、時代的にも大型スポーツ店やネットでの購入が主流になると、それらに対抗するためには種目を絞るしかないという結論に至りました。そこで、リペア(修理)のニーズがある種目を考え、野球とバドミントンに特化しました。

 品揃えの絞り込みには、とても勇気がいりましたよ。グラブに特化して、さらにその後「グラブハウス」を計画したものの、100個も200個も置くとなると、仕入れにかかる金額は1,000万円規模です。しかもグラブは職人の手作りなので、発売の半年前に発注が必要で、完全買取、返品不可。こんなこと、普通は怖くてできませんよね(笑)?とりあえず、他の商品の仕入れを半分にして、その分を全部グラブにあてて、と徐々に仕入れを増やしていきました。でも、この転換を思い切ったからこそ、今ではうちが「道内でグラブなら古内さんでしょ」と言われるようになりました。

 修理を前面に押し出したのも成功でした。修理は状態を見ないと料金が決めきれないので、ネット対応は難しい。でもうちは、修理できる人間がその場でお客様に対応します。例えば、もう部活が残り1ヶ月の場合、フルメンテナンスは必要なく、「この程度の修理で大丈夫ですよ」と提案することもできる。これはリアルの強みですよね。「店はお客様のためにある」が経営理念なので、どこで買ったグラブでも、困っている限り修理します。先日は、「父親に初めて買ってもらったグラブなんです」と超ボロボロの品を持参した方がいました。修理代が買うより高いかもと告げましたが、それでもとおっしゃって。

 グラブ職人の大変さを知るからこそ、安易な値引きをしたくないので、うちの商品はけっこう高いんです。でも嬉しいのは、他のお店を回って「やっぱりここで買う」と戻ってくるお客様も多いこと。「ここだったら何かあったら助けて(修理して)もらえるから」と考えて頂けているんです。

 ある方は、車で5時間半かけて来て、「生まれて初めて、こうしてグラブを手にはめてから買うことができた。幸せです」と本当に感動していて、これもリアル店舗の強みだと確信しました。買い物って、感情の昂ぶりも醍醐味じゃないですか。例えば5万〜6万するグラブを子供が父親と買いに来て、商品を前にとことん相談し合う。「息子と家で喋ることほとんどないのに、グラブ買うときだけめっちゃ喋る」とお父さんも嬉しそうでした。これは絶対ネットショッピングにはできません。クリックするだけでは、そこに感情は渦巻かないですからね。

インタビューの様子2
様々なメーカーの商品が並ぶ「グラブハウス」

知名度アップのため活用すべく、
広告やマーケティングを猛勉強。

お店を盛り上げるため、まず手がけたのは知名度アップです。買う店の選択肢にスポーツショップ古内を入れてもらうにはそれしかないと考え、「広告」を猛勉強しましたが、これには若い頃にした音楽活動での経験が活きました。SNSを活用していたので、情報発信のノウハウや感性が身についていた。例えば、グラブハウスの完成時には、東京から野球YouTuberのトクサンTVさんを招いて紹介してもらい、YouTubeを見たお客様が沢山来ました。

 しかし、その途端にコロナ禍でお店を休業せざるを得なくなりました。。「やばい、仕入れた商品はどうしよう・・・」と焦りましたが、その後は逆に、「コロナで練習できないし、仕事も休みだし、とりあえずグラブ買いに行く?」といった動きがあって、なんとグラブだけは普通に売れたんです。専門化にシフトしていてよかったと思いました。

 ウェブにも力を入れ、2022年にグラブハウスのサイト「https://glovehouse.jp」を開設。今後もっと改良し充実させる予定ですが、私が全国のグラブ職人さんを訪ねて、知る人ぞ知るグラブを紹介し、お客様と職人さんをつなぐポータルサイトにしたいと思っています。サイト内には、オリジナルオーダーができるシミュレーションシステムも導入。もっといろんなグラブや職人さんを開拓して、「日本の職人てすごいでしょ?」ということを知ってもらい、やがては世界の人たちにも知ってもらう。そうなれば、職人業界に対しての貢献になるかもしれません。

インタビューの様子3
インタビューの様子3
オリジナルオーダーができるサイトを構築

総合型スポーツクラブへの夢ほか、
地域社会への貢献について思う。

 父は生前、「青少年の健全な育成に寄与する」ために、地域の総合型スポーツクラブへの夢を語っていました。南区はどんどん人が減って、部活や少年団なども減っています。でもそれを1つにまとめれば、とても巨大な組織になる。子供の頃は多様な種目を体験して運動の神経を刺激するほうがいいという考え方もありますから、月曜は陸上、火曜はサッカー、水曜は野球とかもいいですよね。世代を問わず参加できるようにすれば、三世代交流もできるし、すごくいいな、と思っています。

 さらに、今年からはイベント会場など人が大勢集まる場所にグラブ回収ボックスを設置させてもらって、使わなくなったグラブを回収したいと考えています。回収品は、うちの社員の修理の練習に活用したり、きれいになれば中古品として再販売したり、施設に寄付もできます。今まで捨てるしかなかった古グラブがゴミにならず、さらに、野球を始められる人が増えるかもしれないんです。

インタビューの様子4
地域で開催しているウインターマラソン大会の様子

理想的な事業承継は子育てと同じ?
尊重しあうことが何より大事。

 事業承継の難しいところは、渡した後にアトツギが自分と違うことをするとダメ出ししてしまうところだと思います。「任せたよ、一切手出ししないから。でも困ったら言って」という立ち位置なら、アトツギはのびのびやれる。子育てみたいなもんですかね。子供がちょっと危ないところに登りたがるが、危ないからダメって言ったら可能性を閉ざすので、足を踏み外したらすぐ受け止められる位置にいてあげる。そんなスタンスが理想的ですね。

 一方、渡される側の心得としては、母がよく言うんですが、「先代は井戸を掘った人である。その功績は多大なものだから忘れるな」と。やはり、大事にすべきは大事にして、尊重し合うことが一番大切ですね。

 ちなみに、尊重できるようになるためには、本読むのがすごく近道ですよ。特に「道は開ける」とか「人を動かす」は名著なのでお薦めです。

アトツギへのMessage

「夢」は言葉で描くもの、「目標」は数字で示すもの。
この2つを常に持つべし。

 とにかく、やりたいことはなんでもやるといいよ、ってのはありますね。「三方良し」を意識してやるといい。あと、夢と目標は常に持つことです。私が至った考え方では、「夢」は国語(文章で表現できるもの)。「目標」は数学(で示さねばいけないもの)。「夢」を達成するためには「目標」を何回も何回もクリアし続けなくてはならないんです。例えば私の場合、会社を大きくするとか、総合型スポーツクラブを作るとかは「夢」で、そのために達成すべき「目標」は、グラブを1,000個売ること、です。

 正直に言いますと、私が継ぐとき会社の借金が●000万円ありましたが、私にはそんなこと全然、関係なかった。この会社を続けたい!という気持ちがただただ強かったから。モチベーションのタネがどこにあるかが大事だと思います。人それぞれの考え方なので畳むのも自由ですが、会社としてせっかく1つの文化というか価値を創ったのだから、簡単に畳むのはもったいない。スクラップ&ビルドで、そこからまた何かを創るのがいいと思います。

古内 克弥
古内克弥
1982年、札幌市生まれ。小学生5年生の頃、家業の手伝いを契機に承継を決意。札幌市立平岸高等学校を経て釧路公立大学経済学部を卒業後、ゼット株式会社に入社。3年後に退職して戻り、2017年に社長就任。2年後に「グラブハウス」をオープンしたほか、全国のグラブ職人を紹介し、オーダーのシミュレーションシステムを持つサイトhttps://glovehouse.jpを開設。さらに、古グラブの回収・再利用の実現や総合型スポーツクラブ設立を目指し、地域・業界への貢献を図る。
会社概要
スポーツ用品販売
株式会社スポーツショップ古内
札幌市南区石山2条2丁目8-22https://sp-furuuchi.com/
初代社長・古内昭氏がスポーツ企業での勤務を経て、昭和53年(1978年)に妻・一枝氏と共にスポーツショップ古内を開店。2年後、法人化し株式会社に。まだ大型スポーツ店のない時代、あらゆる種目を扱う地元の店として区民からの厚い支持を受け続ける。2008年、昭氏の逝去に伴い一枝氏が社長就任。2010年に総合スポーツショップから野球とバドミントンの専門店に転向し、2017年に次男・克弥氏が社長就任。2019年には道内最大級のグローブの品揃えを誇る「グラブハウス」をオープン。オリジナルブランドを含める販売、修理、オーダーメイドを扱う。