- (株)ミウラ商会 代表取締役社長 三浦 洋範 氏
アトツギは、アンカーではなく中継ぎ。
“永続”を繋ぐ者として、地域のGS=ライフラインを守り残すことが使命。

努力に勝る武器はなし
アトツギは、自分の基礎を作るべし。
ミウラ商会に入って、継ぐまで13年。ガソリンスタンド(GS)は業務上することも学ぶことも多くて、当初は人の1.5倍は働きました。さらに僕の場合、承継を見据えて、美唄市内を中心に人脈を広げた時期でもあり、休みなんてろくに取れませんでしたが、今思えば「いい時期を過ごした」と思います。絶対に、その時期が自分の礎になっているからです。
努力に勝る武器はないですよ。特に僕ら中小零細企業の人間は、愚直に頑張って頑張って頑張ったところからしか何も生まれてこない。周りの仲間を見ても、台頭しているのは皆、日々努力する人ばかり。それぞれに、苦労して苦労して苦労して、今がある。
私は、戻ってすぐに承継しなくてよかったと思っています。なぜなら、後継者の目指すところは1年や2年先ではなく、ずーっとその企業を継続させることなので、そのためには、やっぱり自分の基礎がしっかりしてないと。修業の日々の中でこそ、方向性が見えて、自覚が生まれてくる。その努力に勝るものはないと僕は思う。
親には0.5秒で「ハイ!」
そのスタンスで、争いは皆無。
“いつか戻るんだろうなあ”との思いはありましたが、 “戻りたい!”ほど強くはなかった。なにせ当時はGSがバタバタ潰れていたので、(経営は)厳しいんだろうなあと。
でも我が家は、親の言うことは絶対なんです。 “孝は百行の本(親孝行が善行の基本)”という教えに従い「親の言うことには0.5秒でハイと言え」と言われて育ったので、「戻らないか」と聞かれれば、「ハイ!」(笑)。
これのいいところは、親を立てるスタンスのおかげで、親子間でバチバチがないこと。もちろん、一緒に働いていれば見解の違いはありますが、そんなときでも「ハイ!」と従う姿を見たスタッフたちが、僕の苦労を察して僕に対して「ハイ!」と言ってくれるようになって。もし僕が父といつもバチバチしていたら、スタッフともそうだったかもしれない。それがミウラ商会にはないので、これはいいなと思いました。
それに、ずっと「ハイ!」でいると、そのうち父が「ホントにそう思ってるか?」と気になって聞いてくるんですよ。そこで初めて、意見を言う。その時も、熱くならず、冷静に意見するのがポイントです。
社長の品格がそのまま会社の評価に。
自分磨き力と質問力が自分の強み。
修業するうちにはっきり見えたのは、“中小零細企業は社長が8割”ということでした。小さな会社の世間的評価は、社長で決まる。お会いして、この人いいなと思って、いい会社だなと思う。なので、経営者は自分を磨かなきゃいけないんです。それが会社のブランドになりますから。
僕自身は、経営者が集う勉強会に年1回は必ず行きます。経営者って、ひと癖あって個性的で、会っていて面白い。話すと人間性も見えてきて、その心の持ち方や考え方がすごくヒントになる。だから、機会は逃しません。
例えば、道経思想(道徳と経済は一体)の勉強会に参加しています。経営者としての心得というか、 “まずは経営者としての心を作ろう”という学びです。でも一方では、“とにかく仕組み化”という本も読んでますけど(笑)。
外に出ていろんな人に会うようにもしていて、この人だ!と思ったら、どんどん質問する。僕、質問力がスゴくて、“そこんとこ、ぶっちゃけどうです?こうできるのに、何でそっちなんですか?”とか、もうグイグイ聞いちゃう。すると向こうもノッてきて、心を開いて答えてくれる。懐に飛び込む力があるのは、僕の長所ですね。

良いスタッフに恵まれるためにも
レベルの高い経営者でありたい。
経営は、フェーズごといろんな悩みが出てくるので、そのつど先輩たちにお聞きしてきました。でも、スタッフについての悩みを口にしたときは「おまえ、なに言ってんだ」と叱られました。「レベルの高い人が欲しいと思ったら、まず自分のレベルを上げろ。いい人を採用できるいい会社を、おまえが作れてないんだよ。会社の品格を上げろ」と。こうしてちゃんと優しく叱咤してくれる先輩を持つことは、ありがたいです。悩みが解決しなくても、道筋が見えてきますから。
あとこれも学んだことですが、いい会社の社長は、絶対にスタッフの悪口を言わない。逆に、すごく褒める。先日も、先輩経営者に店舗の賑わいを一人の消費者として「(先輩は)すごいですね!」と言ったら、「ほんと、すごいんだようちのスタッフ!」って、スタッフを褒めるんです。なるほどなぁと思いました。
今では、僕もほんとスタッフに恵まれているなと実感していて、一生懸命でいい人たちばかり入ってきてくれる。しかも、辞めない。直近5年の離職率はゼロです。人手に困ってないのは、うちの強みですね。
このご時世にすごいと言われますが、突き詰めれば、会社が何のためにあるかを考えなさいってことだと思うんですよ。会社は、従業員(とその家族)のためにあるんです。そして従業員は、お客さんのためにある。僕が考えるべきは、従業員のこと。従業員は、お客さんのことを考える。従業員が会社のこと考え出すと、経営者とバチバチします。そうではなく、徹底的にお客さんのをほうを見て、とお願いしています。この構図を守ってうまく回れば、生まれるのは利益。これができている会社は、いい会社だと思うんです。
GSは地域のライフライン。
永く守り継ぐことが使命。
実は僕、ずっとGSは消えていく斜陽産業だと思ってました。ところが、中に入ってみると全然違う。だって、灯油もガソリンも軽油も、ないと生活できない。人々の生活を支えるライフラインじゃないですか。絶対になくならないし、なくしてはいけないと実感しました。
ミウラ商会の目標というか、美唄におけるうちの最高のサービスって何だと思います?……「永続」です。(ライフラインの存続を)ずっと続けることが、一番のサービスなんですよ。
豊浦の藤川石油を継いだのも、同じ思いから。田舎のGSが次々なくなり、“灯油難民”が出ると知ったんですが、そういう地域の方々の多くは生産者さんで、僕らは米や野菜でお世話になっている。そんな彼らを支え、ライフラインとしての地域のGSを守り残していくのが、僕の使命ではと思い始めたんです。そんな矢先、たまたま豊浦町に、経営は順調だが後継者がなく閉業しそうなGSがあると北海道事業承継・引継ぎ支援センターから紹介されて。
目的は「豊浦に藤川石油を残す」ことなので、経営はしますが、名称をミウラ商会にはしません。地元の藤川石油が続くことを、地元の人に安心と思ってもらいたいんです。
早く豊浦の皆さんに顔を覚えてもらい、信頼を得るために、現在ひと月の3分の2は向こうで勤務です。正直しんどいので、自分がプレイヤーではない経営的役割を主とする立場を模索すべきという意味では、勉強し直し中。今ミウラ商会には不在時を任せられるマネージャーがいるので、豊浦にもそういう状況を作りたいと考えています。

アトツギはアンカーではなく中継ぎ。
次の承継までを見据えていく。
継ぐ時点で、すでに会社のカタチがあり、従業員がいて、お客さんもいる構造体ができあがってるので、さらに会社を良くするためにアトツギができることは、せいぜいあと2割だと思います。言い換えれば、創業者や先代や今まで働いてくれた人たちが培ってくれた土俵なのだということを理解しないと、謙虚になれず、勘違いしてしまう。僕らはただ、8割がた先人が作った歴史の上に、“立たせてもらって”いる。そして、決してアンカーではない。中継ぎです。僕らが繋いで作って、下の代に渡すのが大事な仕事。僕は「永続」の目標の中で、自分が継いで次に、までをビジョンとして見据えています。
社長に就任するとき、先代に経営理念を作ってもらいました。僕は創業者と先代が作り繋いだ歴史の中にいる身だから、ぜひ父に指針を作ってもらいたかった。ただ、条件をつけて、「ミウラ商会は、やがてGSではなくなる可能性もある。でも経営理念は絶対変えないつもりだから、これだけは変えるな!というものにしてくれ」と。で、完成したのが、「感謝報恩の和を広げます(善き人・仲間づくり)」「三方よしの経営を実行します(善き会社づくり)」「社会の発展と道徳化に貢献します(善き社会づくり)」です。
父が作ってくれた、ミウラ商会初の企業理念。僕が思っていることも全部入っていて、これ、好きなんですよ。

いい会社で働いてるね!と言われる
ブランド力を養い、社員を幸せにしたい。
アトツギの正しい在り方というのも、人間性に尽きると思います。経営者が自分磨きの時間をどのくらい作れたかに比例するかもしれないですよ、会社の良さって。
大人が勉強する方法は2つしかありません。「本を読む」か、「人に会う」か。忙しくて時間がないと言う人は多いけど、いやいや、時間を作るのが、(経営者の)仕事です。できないというのは、言い訳です。できないなら、まだまだってこと。僕も先輩に言われてきましたから(笑)、そういうことです。
今後取り組みたいのは、「いいところで働いてるね!」と言われるよう会社のブランド力をつけること。そうなれば、一層いい人が入ってくれる可能性が増える。どうやって実現していこうか、頭を使っているところです。
GSという枠組みだけじゃないんですよ。どうしたら人のためになるか。人のためになって、かつ利益が生み出せるかが、「永続」には不可欠なので。
会社が大きい、イコール、いい経営者、ではない。じゃあ何と考えると、従業員を幸せにしている会社にできたら、そう言えるかなと。でもまあ、会社を良くしたいとか、従業員を幸せにしたいという発想になった時点で、経営者として8割は合格だと思うんですよね。
アトツギへのMessage
言えるのは「頑張れ」!
努力に勝るものなしと心得え、本を読み、話を聞くべし。
メッセージは一言、「頑張れ!」です。努力に勝るものはない。本を読み、人に会い、自分磨きを続けてください。
僕のオススメは、伊那食品工業・塚越寛会長の著書「年輪経営」です。創業から48年間、増収増益のすごい会社ですが、会長は「利益はうんこ」と言い、会社を体に喩えて、健康な体から出るいいウンチがいい肥料になりいい野菜を……という例え話で、「いい会社づくり」を説いています。会社は健康じゃなきゃいけないってことですね。騙されたと思ってぜひ。
あと、参考にしたい会社の経営者がいれば、講演会などに駆けつけて、大いに質問力を発揮しましょう。僕はあらかじめ司会者に、質疑応答で当ててくださいと根回ししますよ(笑)。質問する恥ずかしさは、一瞬。それで一生残る話が聞けるかもしれない。自分のためになると解っていれば、やれます。

- 三浦洋範
- 1981年、美唄市生まれ。卒業後、札幌市にて不動産業や広告代理店業に従事。先代・洋嗣氏が国道向かいの他社店舗を買い取り、一緒にやらないかと声をかけたことを機に帰郷し、平成23年(2011年)、株式会社ミウラ商会に入社。札幌のGSで1年間の修業を経たのち本格的に家業に従事し、13年後の令和6年3月に代表取締役に就任する。地域のGS(ライフライン)を守り存続させることが使命と考え、自社の「永続」を目標とする。同4月には豊浦町の株式会社 藤川石油を第三者承継、こちらの存続にも尽力を続ける。
会社概要
- ガソリン、軽油、灯油、重油、オイル各種の卸小売
株式会社ミウラ商会 - 美唄市進徳町一区
- 昭和28年(1953年)4月、美唄市にて三浦由魂氏が創業。国道12号線沿いに本社兼店舗のガソリンスタンドを構えていたが、平成22年(2010年)頃には、道路向かいの他社店舗を買い取り、2店舗営業を開始。のち、そちらの店舗に移転し、本社・本店機能を集約。現在はENEOS進徳東SSとして、ガソリン・軽油・灯油の販売や、タイヤ・バッテリーほか各種自動車部品・用品の販売、自動車整備・修理・車検などを行い、ライフラインを守る存在として地域に貢献を続ける。二代目・洋嗣氏の後を継ぎ、令和6年3月に洋範氏が代表取締役に就任。同4月には豊浦町の株式会社 藤川石油を第三者承継。